歴史総合におけるジェンダー視点からの問いの一覧(案):A歴史の扉、B近代化と私たち
教材のねらい
同志社高等学校の川島啓一先生からの提供です。
川島先生からのメッセージ
同志社高校社会科で歴史総合と世界史探究を担当している川島啓一と申します。ジェンダー史の「5巻本」(参考文献の①~⑤)を参照し「歴史総合におけるジェンダー視点からの問いの一覧(案):A歴史の扉、B近代化と私たち」を作成しました。「5巻本」を参照すると、歴史総合の授業で教員も高校生もジェンダー視点からどのように問うことができるのか、を考えて作りました。また、この案は、参考文献⑥~⑨を踏まえたものになります。
「単なるエピソードとしてのジェンダー視点からの学習」だけではなく、歴史総合のカリキュラムに位置づけられたジェンダーの視点からの学習にしたいと考えています。
特に「B 近代化と私たち」における「近代社会の統合と排除」のテーマでは、「フランス革命で生まれた憲法では、なぜ選挙権から女性が排除されたのか」「フランス革命が進むにつれて、なぜ「女性の政治結社の禁止」(一七九三年)、「女性のみの議会傍聴の禁止」(一七九五年)、「女性の政治集会への参加禁止」(一七九五年)や、「家庭復帰令(秩序の回復まですべての女性が各自の家庭に帰ること:一七九五年)」が決められたのか」「大日本帝国憲法では、なぜ選挙権から女性と多額納税者以外の男性が排除されたのか」「近代国民国家形成期には、なぜ「国民の義務」としての兵士像や「男らしさ」を新たに学習させる必要があったのか」「国民形成の過程で、なぜ男性は祖国のために戦い、女性は家・家庭を守って民族をつなぐ、という役割が課されたのか」「戦う男のマスキュリニティ(男性性)は、なぜ戦えない性である女性だけでなく、戦わない /戦えない「弱き男性」の存在によっても強化されたのか」「戦わない /戦えない「弱き男性」は、国民国家の中で、どのような社会的な制裁を、なぜ受けたのか」という問いを教室で考えることは、歴史総合「近代化と私たち」のカリキュラム上、大切ではないかと考えています。歴史総合では「近代化と私たち」の「私たち」とは、一体、誰なのか、を常に問い直さなければならないですが、上記の問いは、「誰が、どのように、なぜ近代社会に統合・排除されたのか」を「近代化と私たち」のテーマの中で学習することが可能になります。
また、「公私のあり方と近代家族」のテーマでは、「我々が自然だと考えていた家族は、なぜまだ250年あまりの歴史しか持たない「近代家族」だとされたのか」「近代的なジェンダー秩序の形成には、なぜ男性が公的分野を担当し、武器を取って祖国と女・子どもを守り、女性が国民の基礎となる家を守るという補完性によって、はじめて強固で一体化された国民が形成されると考えられたのか」という問いを教室で考えることは、歴史総合「近代化と私たち」のカリキュラム上、大切ではないかと考えております。
さらに、「近代市民法のジェンダー・バイアス」というテーマでは、「フランス民法典では、なぜ妻は単独で法廷に立てず、自分の財産を自由に処分できなかったのか」、「なぜ妻は法的には「無能力」とされたのか」「フランス民法典では、なぜ「夫は妻を保護し、妻は夫に従うべきである」と規定したのか」「「ドイツ民法典では、なぜ「妻の(持参)財産は婚姻により夫の管理及び収益に服するものとする」と規定したのか」「明治民法の家族観は、どのようなものであったか」「明治民法では、妻は法的行為者として、どのような地位に置かれたか。妻の財産は、だれが管理したのか。また、これら背景は何か」「『戸主』である夫は、男性国民としてどんな義務や規範を、なぜその生活水準を問わずに求められたか」という問いを教室で考えることは、歴史総合「近代化と私たち」のカリキュラム上、大切ではないかと考えております。特に、近代国家における「民法」のジェンダー・バイアスを考えることが重要ではないか、と考えております。
今回の「歴史総合におけるジェンダー視点からの問いの一覧(案):A歴史の扉、B近代化と私たちは、「突貫工事」でつくりましたので、これからもブラッシュアップしてゆきたいと思います。さまざまにご批判いただけますと幸甚でございます。「単なるエピソードとしてのジェンダー視点からの学習」だけではなく、歴史総合のカリキュラムに位置づけられたジェンダーの視点からの学習になるように教材開発をすすめてゆきたいと思います。
参考文献・資料
- 三成美保・姫岡とし子・小浜正子編 『歴史を読み替える ジェンダー視点から見た世界史』大月書店、二〇一四年
- 久留島典子・長野ひろ子・長志珠絵編 『歴史を読み替える ジェンダー視点から見た日本史』大月書店、二〇一五年
- 三成美保・小浜正子・鈴木則子編 『<ひと>から問うジェンダーの世界史 第1巻「ひと」とはだれか?ー身体・セクシュアリティ・暴力』大阪大学出版会、二〇二四年
- 姫岡とし子・久留島典子・小野仁美編 『<ひと>から問うジェンダーの世界史 第2巻「社会」はどう作られるか?ー家族・制度・文化』大阪大学出版会、二〇二三年
- 井野瀬久美惠・粟屋利江・長志珠絵編 『<ひと>から問うジェンダーの世界史 第3巻「世界」をどう問うか?ー地域・紛争・科学』大阪大学出版会、二〇二四年
- 川島啓一 「報告:ジェンダー視点をどう取り入れるか?―高校歴史教育の現場から―」『ジェンダー史学』第一四号、二〇一八年、六九~八五頁
- 井野瀬久美惠・川島啓一 「〈対談〉「世界史」をどう教える/学ぶか―歴史教育とジェンダー史の視点を中心に」 成田龍一・長谷川貴彦編『〈世界史〉をいかに語るか―グローバル時代の歴史像』岩波書店、二〇二〇年、一五〇~一六八頁
- 川島啓一 「SDGs目標5「ジェンター平等」の視点を組み込んだ世界史授業」『社会科教育2020年11月号』明治図書出版、二〇二〇年、九〇~九三頁
- 川島啓一 「コラム 対話で学ぶ世界史の実践」小川幸司責任編集『世界史とは何か』(岩波講座 世界歴史1)岩波書店、二〇二一年、二〇三~二〇四頁