日本は単一民族国家か? アイヌから日本のナショナリティとエスニシティを考える
教材のねらい
北海道教育大学の星瑞希先生からの提供です。
星先生からのメッセージ
昨年度、歴史総合を意識して、高校生の日本史Aで単元開発、ならびに実践を行いました。
「日本は単一民族国家である」という現代社会においても、度々論争になる問題(言説)を生徒が批判的に吟味できるようになることを狙いとして授業を行いました。単元の序盤では、ウェストファリア条約をはじめとする西洋の近代的な国際体制が誕生し、世界中に広がっていくことや、その一環として東アジアでは、冊封体制に変化が生じていることを扱いました。
単元の中盤からは、「日本は単一民族国家か?」という言説を批判的に吟味する段階となっています。
この単元はカナダでセイシャスらによって進められた「歴史的思考プロジェクト(HTP)で開発された、「歴史的思考概念」*を用いて単元を構成しました。歴史的思考概念の一覧を表1、単元を構成する問いと問いに反映されている概念は図1に示した通りです。
単元前半では、明治政府の近代化政策の中で、アイヌの生活や文化的な営みはいかに変容したのか(継続と変化)、その原因は何か(原因と結果)、アイヌはどのように見られていたのか、どのように、どのような「日本人」になったのか(歴史上の他者の見解)を探究しました。
単元後半では、前半の過去の探究を踏まえて、現代社会においてアイヌの歴史がいかに記憶されているのかを探究しました。具体的には、アイヌはどのように記憶しているのか、どの歴史を重要であると考えているのか(歴史的意義)、政府は歴史をどのように記憶していて、どのような責任を果たそうとしているのか(歴史的意義、倫理的判断)を問いました。
以上の探究過程を踏まえて、生徒個々が「日本は単一民族国家か?」という問いに対して、意見表明をしました。
*歴史的思考概念は、新学習指導要領で言われているところの「歴史の見方考え方」であると考えています。詳しくは、星ら(2020)「現代社会における歴史論争問題に取り組むための授業構成―セイシャスらの「歴史的思考プロジェクト」に着目して―」『社会系教科教育学研究』32号をご参照ください。
参考文献
- テッサ・モーリス=鈴木(2000)『日本の辺境から眺める-アイヌが経験する近代-』
- 瀬川拓郎(2015)『アイヌ学入門』講談社現代新書.
- 秋辺日出男(2017)『イランカラプテ アイヌ民族を知っていますか?-先住権・文化継承・差別の問題-』明石書店
- 平野克弥(2018)「「明治維新」を内破するヘテログロジア」『現代思想 2018年6月臨時増刊号 総特集=明治維新の光と影』青土社
- 坂田美奈子(2018)『歴史総合パートナーズ⑤ 先住民アイヌはどのような歴史を歩んできたか』清水書院
- 中山大将(2019)『歴史総合パートナーズ⑩ 国境は誰のためにある?』清水書院
- テッサ・モーリス=スズキ(2020)『アイヌの権利とは何か』かもがわ出版.
*本教材は教材共有サイト(旧サイト)に2022年4月15日にアップロードされた教材と同じものです。