中国の教科書の秦檜と岳飛の語られ方の変化は、正しいと言えるのだろうか。

教材のねらい

和歌山県立和歌山北高等学校の寺前駿先生からの提供です。

寺前先生からのメッセージ

 南宋の秦檜と岳飛に関する教材です。秦檜と岳飛が現代の中国においてどのように評価されているのかについて中国の歴史の教科書の記述から考える授業を作りました。

 実際に授業をしてみて、問4と今回の問いの部分を変えています。元々の問4は「資料5,6の中国の教科書では、秦檜と岳飛についてどのような理由で評価しているだろう?」で、元々の今回の問いは「中国の教科書の秦檜と岳飛の語られ方はどの程度正しいと考えるか?もしくはどの程度正しくないと考えるか?変えるべき点があるとすればどこだろう?」としていました。このような問いに設定した理由は、日中の歴史認識の違いによって政治的な対立が起きることに対する生徒の思考を促したいからでした。しかし、実際に授業を行ってみると、秦檜と岳飛の現代の中国の歴史認識から日中の歴史認識の違いへとつなぐために遠回りの説明を生徒にしてしまい、生徒の思考としても戸惑う様子がみられました。

 そこで、無理に日中関係に繋げるのではなく、現代の中国の少数民族への対応について考えることを促すようにするために1950年代の中国の教科書の記述から現在の中国の教科書の記述の変化を読み取る活動に変えました。1950年代の教科書では外敵の侵略に対抗したという理由で岳飛を「愛国」の英雄として称え、秦檜を「売国奴」として批判しているのに対して、現在の教科書では岳飛の活動に敵である金の人々も賞賛し、秦檜への批判を弱め、「中華民族」としての一体性を重視した記述に変化しています。ここから、ウイグル問題をはじめとする中国政府の少数民族への「同化」政策について、「みんな一緒で仲良くしよう」という一見良いように感じる考え方に対して生徒たちが疑問を持つことができれば良いと考えています。

 できれば、歴史総合の学習を踏まえて1950年代の中国の国際情勢と絡めて、日中戦争の記憶が新しいことや朝鮮戦争により資本主義勢力の脅威が間近にあることから、1950年代の教科書は外敵への対抗の重要性を説いた記述になっていることを読み取る活動を取り入れたかったですが、現在の勤務校の生徒の実態からすると情報過多になるだろうとの判断で取り入れていません。

 今後の展望としましては、1950年代の教科書の原著にあたる余裕がなかったので、それを探してみたいことと、現在の中国の少数民族への対応の問題を生徒たちに「自分ごと」として考えることができるような仕掛けを用意したいと考えています。これらのご意見、その他全般のことでコメントをいただけましたら幸いです。

参考文献・資料

  • 『ニューステージ世界史詳覧』(2023年、浜島書店)
  • 丸橋充拓『江南の発展 南宋まで シリーズ中国の歴史②』(2020年、岩波書店)
  • 小野寺史郎『中国ナショナリズム』(2017年、中公新書)
  • 中村哲『東アジアの歴史教科書はどう書かれているか』(2004年、日本評論社)
  • 課程教材研究所編、並木頼寿監訳『中国の歴史と社会』(2009年、明石書店)
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