私たちは朝鮮の植民地支配という歴史にどう向き合うべきか。
教材のねらい
埼玉県立与野高等学校の武井寛太先生からの提供です。
武井先生からのメッセージ
以前アップロードした歴史総合の教材「あなたは大学で韓国からの留学生と知り合ったとき、「韓国併合」をどのように語る?」のアレンジ版です。
導入で生徒自身の誤概念や偏見を記述させて自らの認識を自覚することで自分の認識を吟味・検証の俎上にあげ、対話のなかでその素朴概念が変化することが可能になるという仮説に基づいています。以前の教材とねらいの変更はありませんが、そのねらいに即してエキスパート資料の構成と導入を変更しました。
導入では、「「日本の侵略、帝国主義を粉砕しよう!」という韓国で行われているデモに対し、以下の感想に率直に共感しますか。共感する場合は〇をつけよう。」と問い、以下の三択を選ばせます。
1 韓国併合は、朝鮮を近代化させたため、良い側面もある
2 韓国併合は、現代を生きる私には関係がない
3 韓国併合は、当時としては仕方がなかった
1,2,3は今まで私がみとってきた生徒の素朴概念です。エキスパート資料はこの3つを検証する構成となっています。
エキスパート資料では、
1「日本の植民地統治は「良い側面」があったといえるのか」
→植民地肯定論を実証主義的な資料をから検証します。実証主義的な検証については、拙著『歴史総合・日本史探究・世界史探究を実践するためのヒント』に掲載されている髙野晃多先生の教材がもっと踏み込んだ資料を取り入れています。
2「『現代』の『日本』に生きる若者は韓国併合と関係がない」という言説を再考しよう。
→テッサ・スズキの議論ですが、生徒が読み取りにくかった箇所を下線や注釈で補強しています。
3「韓国併合は当時としては仕方がなかった」という言説を再考しよう。
→日高智彦先生の「帝国意識」を軸に構成し、朝鮮総督府の帝国意識と石橋湛山を取り上げ、植民地にまつわる「他の選択肢」があったことに気付かせます(このアイディアは星瑞希先生から学びました)。そのうえで、他の選択肢ではなく植民地支配を肯定する選択肢に共感している時、帝国意識を継承していることになると追及します。
この3つの検討から、韓国の植民地支配「私たち」とは関係がないとは言い切れない、ことに生徒に気付かせることを「ねらい」としています。
またKCJは、生徒の素朴概念を引き出しやすい方法論だと考えており、実際に授業中では様々な考えを聞くことができました。特に興味深いのは、テッサの資料で「個人が謝る必要はない」という箇所を多くの生徒が強調する点です。「私たちとは関係がない」と直感し、そこから韓国ヘイトに共感してしまう生徒たちにとって、これは救いの一文であり、だからこそ感情的に反発せず他の資料を読めるのではないか、と推察しています。
一方で、「韓国人はしつこい」と発言する生徒も一定数います。これも強固な素朴概念ですので、グローバル化と私たちの単元で、開発独裁を題材に「なぜ反日暴動が起きるのか」をMQとする授業を実践しました。こちらについては別途アップします。
以前の教材のメッセージ本文で共通するところを再掲します。
KCJは対話の時間中に教師の介入がないため、生徒は自分の考えを自分の思うタイミングで発しやすくなります。そのため、センシティブで政治的な価値判断を発言しやすくなるとともに、発言に対する責任や影響を自覚する機会が生まれると考えられます。