「多民族国家」のあり方と「下から」の政治運動
教材のねらい
和歌山県立和歌山北高等学校の寺前駿先生からの提供です。
寺前先生からのメッセージ
本教材は、中国の歴史教科書の元・明・清に関する記述を読み取り、現在の中国の歴史政策について評価するものです。
これは、2024年1月での第2部会シンポジウムで報告させていただいた、南宋の秦檜と岳飛の現代の評価を中国の歴史教科書から読み取る授業での反省点であるメタヒストリー学習における段階を追った問いづくりをするために作成しました。また、懇親会で他の時代でのメタヒストリー学習の授業を作ってみるのも良いのではないかとの意見をいただき、中国史の別の時代で作成しようと考えました。ちょうど本校の世界史探究の学年末考査の範囲が元・明・清ということもあり、定期考査直前の振り返りの授業として、教科書や学習指導要領の区切り方とは異なりますが、中国史として元・明・清の特徴を振り返りつつ、生徒たちに歴史を学ぶ意味を感じられるように意識しつつ、歴史の解釈の評価を行う授業を実施しました。
授業としては全2回です。まずは、生徒に「自分ごと」として今回の授業を捉えてほしいと考えたため、生徒にとって身近なことから問いをなげかけました。そして、そこから現在の中国社会の課題について生徒自身が考える活動を用意しました。
服部一秀「社会のなかの歴史に関するメタヒストリー学習の意義 –ドイツの歴史教科書 『歴史と出来事–テューリンゲン州版』を手がかりにして-」(社会系教科教育学会 『社会系教科教育学研究』第28号、2016年)では社会の中の歴史を対象とする学習には、3つの基本タイプがあり、第1のタイプが既存の歴史の内容を理解する学習、第2のタイプが既存の歴史の理由や背景を認識する学習、第3のタイプが既存の歴史への対応を判断する学習と重層構造なっていることを指摘しています。本教材でもこのタイプに応じて、1回目のワークシートの問4,5で第1のタイプとして元・明・清の歴史の振り返りを行い、2回目のワークシートの問1~6で第2のタイプとして中国の教科書の記述の理由や背景を認識する学習、2回目のワークシートの今回の問いで第3のタイプとして、生徒自身の考えを記す学習を行いました。
また、資料の内容には、皇帝専制に対する批判的な内容や異なる個性を持った人々との共生と捉えることができる内容などの中国の教科書の記述も採用して、生徒の思考の揺さぶりを図りました。
実際に授業を行った時には、第2のタイプの活動に躓く生徒が多く存在しました。今回の授業では、第3のタイプの学習に重点を置きたかったので、第2のタイプの問いのところでは、授業者の言葉かけを多く行い、思考を促しました。この第2のタイプの思考が生徒にとって難しかった原因がはっきりとはわからないので、今後の課題としつつ、何か理解できるヒントをお持ちの方はコメントで教えていただくと幸いです。
参考文献・資料
- 「響く叫び声、戻った顔は恐怖に白く ウイグル「収容所」教師が語った」(朝日新聞、2022年9月30日)(2024年2月19日閲覧)
- 「グンゼ、新疆綿の使用中止へ 人権侵害への懸念で」(朝日新聞、2021年6月16日)(2024年2月19日閲覧)
- 帝国書院『明解歴史総合』
- 帝国書院『新詳世界史探究』
- 課程教材研究所編、並木頼寿監訳『中国の歴史と社会』(明石書店、2009年)
- 中村哲『東アジアの歴史教科書はどう書かれているか』(日本評論社、2004年)
- 服部一秀「社会のなかの歴史に関するメタヒストリー学習の意義 –ドイツの歴史教科書 『歴史と出来事–テューリンゲン州版』を手がかりにして-」(社会系教科教育学会 『社会系教科教育学研究』第28号、2016年)