「戦後日本はアメリカに守られて平和だった」という言説は、何を捨象してきたのだろうか?
教材のねらい
神奈川県立厚木清南高等学校の稲垣翼先生からの提供です。
稲垣先生からのメッセージ
今回アップロード致しました知識構成型ジグソー法教材は、2022年7月31日に高大連携歴史教育研究会・第8回大会のパネル報告「知識構成型ジグソー法では何ができて何ができないのか?-実用主義の視点を取り入れて-」で発表した教材案を改変したものです。
佐伯佳祐先生と武井寛太先生に実際にご実践頂いたことで、貴重なフィードバックを得ることができ、今回の改変に至りました。この場を借りて、両先生に深く感謝申し上げます。なお、改変に当たって生じる責任は全て稲垣が負っております。
とりわけ今回の改変に当たって、当初私が「『戦後日本はアメリカに守られて平和』だったのか?」と、あたかも正規の論争問題であるかのような「開かれた問い」として設定していたMQを、佐伯先生がご実践に際してダイアナ・E・ヘスが言うところの「閉ざされた問い」として再設定されたことから大きな学びを得ました。そこで今回、佐伯先生が設定された「『戦後日本はアメリカに守られて平和だった』という言説は、何を捨象してきたのだろうか?」をMQとし、各エキスパート資料に、私の判断で以下のような問いを改めて設定しました。
♣:「金網の中の土地」には、どのような記憶の地層が折りたたまれているのだろうか?
♥:沖縄における植民地主義は終わったのだろうか?
♠:「軍事化された男性性」の伝統を、私たちは断ち切ることができたのだろうか?
さらに、ジグソー活動とクロストークを経た後で取り組む♦資料を追加しました。(本手法も佐伯先生のご実践から学ばせて頂きました)
♦:私たちは、過去をどのように「使う」べきなのだろうか? どのように「使う」べきではないのだろうか?
改変したエキスパート資料では、テッサ・モーリス=スズキが提唱する「連累」と「歴史への真摯さ」の両思考概念の活用をより明示的に求めるとともに、必要な資料を適宜補っています。また、新たに追加した♦資料は、パネル報告で問題提起した実用主義が内包し得る危険性と、質疑応答で提起された「読ませる暴力性/読ませない(社会から隠す)暴力性」を学習者自身に問うメタ歴史教育的な課題設定となっています。
なお、パネル報告と本教材の作成に当たって、2021年10月23日に開催された歴史学会・第4回歴史総合シンポジウム「『グローバル化』の論じ方」で戸邉秀明先生がご報告された「米軍基地から考える『グローバル化』と私たち ~沖縄の経験を中心に~」から多くの示唆を頂きました。この場を借りて深く感謝申し上げます。
参考文献・資料
- ❶教材作成において引用または参考にした文献
・松岡哲平『沖縄と核』(新潮社、2019年)
・林博史『米軍基地の歴史 世界ネットワークの形成と展開』(吉川弘文館、2012年)
・目取真俊「群蝶の木」(『面影と連れて 目取真俊短篇小説選集3』影書房、2013年)
・吉見俊也『親米と反米 戦後日本の政治的無意識』(岩波新書、2007年)
・森口豁『米軍政下の沖縄 アメリカ世の記憶』(高文研、2010年)
・鳥山敦「占領と基地問題」(歴史学研究会編『「歴史総合」をつむぐ』東京大学出版会、2022年)
・アケミ・ジョンソン『アメリカンビレッジの夜 基地の町・沖縄に生きる女たち』(紀伊國屋書店、2021年)
・『問いからはじまる歴史総合』東京法令出版、2022年
・新城郁夫編『沖縄・問いを立てる3 攪乱する島―ジェンダー的視点』(社会評論社、2008年)
・冨山一郎『流着の思想 「沖縄問題」の系譜学』(インパクト出版会、2013年)
・久留島典子・長野ひろ子・長志珠絵編『歴史を読み替える ジェンダーから見た日本史』(大月書店、2015年)
・デヴィッド・ヴァイン『米軍基地がやってきたこと』(原書房、2016年)
・マイク・モラスキー『新版 占領の記憶 記憶の占領 ―戦後沖縄・日本とアメリカ』(岩波現代文庫、2018年) - ❷教材作成において理論的支柱とした文献
・テッサ・モーリス=スズキ『過去は死なない―メディア・記憶・歴史』(岩波現代文庫、2014年)
・同『批判的想像力のために』(平凡社ライブラリー、2013年)
・ダイアナ・E・ヘス『教室における政治的中立性 ―論争問題を扱うために』(春風社、2021年)
・目取真俊『眼の奥の森』(影書房、2009年)