「大衆」って正しいの?

教材のねらい

東京都立足立高等学校の山本治輝先生からの提供です。

山本先生からのメッセージ

 東京都立足立高校(偏差値48~50程度)での実践です。歴史総合大項目C「国際秩序の変化や大衆化と私たち」のうち、大衆の政治参加と大衆文化をテーマとした授業実践です。「大衆」という語句の定義に着目し、「なぜ、国民が政治に興味を持ち政治参加するようになったのか」、「なぜ、大衆の中で流行のファッションやカルチャーが形成されるようになったのか」に着目し、生徒1人1人も大衆の一員であることを自覚させ、大衆に流されることの怖さについて学習する単元となっています。

 歴史総合では概念を教えることが重視されていますが、中学校での歴史の知識が定着していない生徒が大半である本校レベルの生徒で概念重視型の授業に振り切ってしまうと、歴史的事象の時系列を上手く整理できず、混乱してしまう生徒が多いことが予想されます。そこで、2023年度は「概念を重視ししながら、時代順に授業を進め、教科書1冊を終わらせる」ことを目標に、3つの大項目すべてを学習できるよう逆算し、各単元のコマ数を自分で決め、そのカリキュラム通りのペースで授業を作っています。

 近代化・大衆化・グローバル化の3つの概念に触れることができ、資料と講義内容をかなり絞るため使う講義内容の筋道と資料の精選の訓練にもなり、より分かりやすい授業づくりを実践することができているように感じます。一方で、内容を絞っているからこそ歴史的事象を多面的・多角的に理解・思考できる授業になっていない気はしており、「授業の分かりやすさ」と「多面的・多角的な視点」の両立を現在の自身の課題だと感じています。

 本教材は左側の「大衆の政治参加」で1時間、右側の「大衆文化」で1時間の計2時間で学習する内容になっています。以下、授業の大筋の内容になります。

<大衆の政治参加>
松岡昌和氏が示している「大衆」という言葉の定義を確認し、他の人と同様であることを好む人々のことを指す言葉だということを説明
→「流行っている」から始めたこと、買ったものはあるかを考え、生徒1人1人が大衆の一員であることを自覚
→就学率の上昇によって国民の画一化の初歩となり、就学率の上昇→識字率の上昇→新聞購読者数の増加→国民の政治に対する興味の増大によって大衆が政治に参加していくことを説明
→吉野作造の『憲政の本義を説いて其有終の美を済すの途を論ず』から国民の政治参加への風潮が高まったことを説明
→イギリスと日本の選挙権の拡大について表で確認し、イギリスに比べて日本の選挙権拡大が進んでいなかったことを説明
→松岡昌和氏の文献から大衆の政治参加によって、より目の前の出来事に対するストレートな感情が重視される情緒的な政治に変化したことを説明
⇒ポピュリズムの形成を念頭に、物事を決めるときに、「みんなが良いっていうからそっちにしてみよう」ではなく、自分で1度立ち止まって冷静に様々な観点から考えることで大衆が参加する理性的な政治になるのではないかと生徒に問いかける。

<大戦景気と大衆文化>
・日本の第一次世界大戦中の工業生産額や貿易額が急激に上昇していたことをグラフから読み取る
→物価指数と賃金指数を示したグラフから物価高に対して賃金の上昇が鈍く、実質賃金指数が低下していることから多くの国民の生活が苦しかったことが米騒動につながったことを説明
→経済の発展が第一次世界大戦後の大衆文化の発展につながり、大衆文化が人々の生活の画一化を促し、雑誌や映画などメディアの発達が流行の形成に大きな役割を果たしたことを説明
→ただ、戦後恐慌などもあり、思うような経済発展にはならず回復し始めた矢先に関東大震災が発生
→関東大震災時に在日朝鮮人が火災を起こしたという陰謀論がデマとして流布し、朝鮮人虐殺につながったことを説明
⇒周囲の人々が言っているからと言ってデマを信じたことが朝鮮人虐殺へとつながっており、「みんなが言っているから、本当のこと」と安易に信じることは時には危険な時もあり、噂などに対して自分で1度立ち止まって冷静に様々な観点から考えることが大切なのではないかと生徒に問いかける。

 授業時間の関係上、日本の事例にしか触れていないことが私自身不本意で、アメリカでの大衆文化の形成から1920年代のアメリカの繁栄にも触れたかったところではあります。ただ、限られた時間でテーマの核の1つとなる単元をどのように扱うかというところでは、このようなアプローチもありなのではないかと思い、ご意見いただきたくアップロードしております。

 閲覧頂けましたらぜひ、私の授業プリントでは欠けている視点や同じ筋道でも今回使っていない資料で使えそうな資料の提案などございましたら、忌憚なくご意見いただければ幸いです。

参考文献・資料

  • 松岡昌和著「大衆文化の展開は世界にどのようなインパクトをもたらしたか」(『「歴史総合」世界と日本 激変する地球人類の未来を読み解く』戎光祥出版、2022年)
  • 成田龍一著『シリーズ日本近現代史④ 大正デモクラシー』岩波新書、2007年
  • 藤野裕子著『民衆暴力-一揆・暴動・虐殺の日本近代』中公新書、2020年
  • (教科書)『現代の歴史総合 みる・読みとく・考える』山川出版社、2022年
  • (教科書)『私たちの歴史総合』清水書院、2022年
  • 『新詳 歴史総合』浜島書店、2022年
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単元に含まれる教材

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