「グローバル化」を問い直す:グローバルヒストリーからみた「歴史総合」の分析視角(レジュメ)

教材のねらい

福岡雙葉中学・高等学校の高橋毅先生からの提供です。

高橋先生からのメッセージ

 初投稿です。福岡雙葉中学・高等学校の高橋毅と申します。近世イギリス帝国史・植民地史・海事史が専門です。https://researchmap.jp/pressgangriot

 本資料は、2023年8月の第23回九州西洋史学会若手部会「中高大連携の現在地―試験から見える歴史の面白さ」でのリハーサル用に作成したレジュメです。「歴史総合」の授業実践における一助として共有いたします。

 「グローバル化」という言葉は、「近代化」や「大衆化」に比べて自明の概念として浸透している印象がありますが、その実態は極めて多層的で、時代によっても異なるはずです。本レジュメでは、グローバルヒストリーの研究動向を整理した上で、「歴史総合」における「グローバル化」概念の捉え方を再検討しています。

 国民国家史観の相対化を目的とするグローバルヒストリーですが、あえて単純化すれば、「ヨコのつながり」を重視するか、それとも「タテのつながり」を重視するかでその分析視角や描き方は異なってきます。

 その中で私が重要視しているのは、ゼバスティアン・コンラートの研究です。コンラートは「ヨコのつながり」にのみ焦点を当てるグローバルヒストリーを痛烈に批判し、権力構造と行為主体の双方をみる必要性を提起しました。

 このような分析視角から、改めて歴史総合における「グローバル化」をみると、冷戦終結以後の「グローバル化」を「アメリカニゼーション」として捉える歴史学研究の重要性が浮かび上がってきます。ヒト・モノ・カネの広がりやネットワークにのみ注目するのではなく、その背景にある「アメリカの覇権」、そしてそれが生み出す暴力、権力の非対称性、それに抗するあるいは与する人々の主体性を看過してはならないということです。西洋中心史観や国民国家史観の克服を目指す歴史総合だからこそ、「グローバル化」そのものの捉え方には注意が必要だし、概念そのものを問うことで現在の社会を見つめ直すきっかけもつくることができるでしょう。

 この資料は3年ほど前、ロシア=ウクライナ戦争への問題意識から作成したものですが、2026年現在の混迷を極める世界情勢において、そのアクチュアルな重要性はさらに増していると感じています。「つながり」を強調するだけの「グローバル化」から一歩踏み込み、その背後にある権力構造を生徒と共に考えるための授業素材としてご活用いただければ幸いです。

 言及できていない著作や論文も多々あると思います。コメント欄でぜひご批判ください。

参考文献・資料

  • 政治学・国際関係論におけるグローバル化
    ・ヘルド、D/マッグルー、A(中谷義和・柳原克行訳)2003『グローバル化と反グローバル化』日本経済評論社
  • 「アメリカの覇権」「アメリカニゼーション」に関する著作
    ・紀平英作/油井大三郎編2006『グローバリゼーションと帝国』ミネルヴァ書房
    ・松田武/秋田茂編2002『ヘゲモニー国家と世界システム:20世紀をふりかえって』山川出版社
    ・油井大三郎/遠藤泰生編2003『浸透するアメリカ、拒まれるアメリカ:世界の中のアメリカニゼーション』東京大学出版会
  • グローバルヒストリーとは何かを紹介しているもの、論じているもの
    ・水島司2010『世界史リブレット127 グローバル・ヒストリー入門』山川出版社
    ・妹尾達彦2018『グローバル・ヒストリー』中央大学出版部
    ・クロスリー、パミラ(佐藤彰一訳)2012『グローバルヒストリーとは何か』岩波書店
    ・ハント、リン(長谷川貴彦訳)2016『グローバル時代の歴史学』、岩波書店
    ・コンラート、ゼバスティアン(小田原琳訳)2021『グローバル・ヒストリー:批判的歴史叙述のために』岩波書店
    ・秋田茂/桃木至朗編2008『歴史学のフロンティア:地域から考え直す国民国家史観』大阪大学出版会
    ・秋田茂/桃木至朗編2013『グローバルヒストリーと帝国』大阪大学出版会
    ・秋田茂/桃木至朗編2016『グローバルヒストリーと戦争』大阪大学出版会
    ・羽田正2018『グローバル化と世界史』東京大学出版会
    ・北村厚2019「グローバル・ヒストリー研究における西洋史の位置づけ」『人文学部紀要』39号、77-88
  • 古代〜中世のグローバルヒストリー
    ・クライン、エリック(安原和見訳)2018『B.C.1177:古代グローバル文明の崩壊』筑摩書房
    ・ハンセン、ヴァレリー(赤根洋子訳)2021『西暦1000年のグローバリゼーションの誕生』文藝春秋
  • 歴史総合に関する文献
    ・日高智彦2015「世界史教育の課題と西洋史学」『西洋史学』260号、332-347
    ・成田龍一2022『シリーズ歴史総合を学ぶ② 歴史像を伝える:「歴史叙述」と「歴史実践」』岩波新書
    ・小川幸司2023『シリーズ歴史総合を学ぶ③ 世界史とは何か:「歴史実践」のために』岩波新書
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