カノッサの屈辱って本当に「屈辱」なの?
教材のねらい
都立八王子拓真高等学校の加藤隆浩先生からの提供です。
加藤先生からのメッセージ
都立八王子拓真高等学校(昼夜間定時制)における授業実践である。
本実践では,受験対策に偏することなく,多様なテーマを通して世界史を多面的・多角的に捉え直し,社会的事象の意味を主体的に問い直すことを目的としている。
本時では,中世ヨーロッパ史における重要な出来事として知られる「カノッサの屈辱」を題材とする。しかし,本授業の目的は単に教皇と皇帝の対立構造を理解することではない。一般に「カノッサの屈辱」は,皇帝が教皇に敗北した出来事として説明されることが多いが,近年の研究ではその解釈は必ずしも一様ではないことが指摘されている。そこで本時では,当時の教皇側史料,皇帝側史料,さらに現代の研究者による見解を比較・検討する活動を通して,「カノッサの屈辱」が本当に皇帝にとって屈辱的な出来事であったのかを考察させる。生徒は史料を批判的に読み取り,それぞれの立場や時代背景によって歴史の語られ方が異なることを理解するとともに,歴史的事象は単一の見方では説明できないことを学ぶ。また,本時の学習を通して,歴史とは単なる事実の暗記ではなく,残された史料を根拠として多面的・多角的に解釈する営みであることを理解させたい。さらに,「カノッサの屈辱」という呼称そのものが後世の価値判断を含む可能性についても考察させることで,歴史叙述の形成過程への関心を高め,今後の世界史学習における史料読解や歴史的思考の基盤を育成することを目指す。
なお,諸文献および中世史に関する内容については,本校の生徒の実態に即して理解を促すため,授業者による一定の再構成を加えている。
また,本実践は前任校全日制課程において実施した教師道場の授業実践を,定時制向けに簡易化したものである。(東京教師道場は東京都教育委員会が行っている授業力向上のための研修のこと)。
参考文献・資料
- 安部 雅延「英雄『ナポレオン』没200年の今、猛批判される訳」(東洋経済オンライン)2021年5月7日。
- 伊藤保(1972)「カノッサの屈辱」『上智大学外国語学部紀要』(上智大学外国語学部)4-7, pp.81-108。
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- 樺山紘一(1985)『ヨーロッパの出現』講談社。
- 神崎忠昭(2022)『ヨーロッパの中世』慶應義塾大学出版会。
- 小林亜沙美(2023)「ランパート・フォン・ヘルスフェルトの『編年誌』1077年の章―翻訳と解説―」『就実論叢』(就実大学)52, pp.39-54。
- 坂井榮八郎(2003)『ドイツ史10講』岩波書店。
- 酒井幹央(2025)「皇帝による教皇廃位と教皇による皇帝破門―叙任権闘争前期における法的論争―」『学生法政論集』(九州大学学術情報リポジトリ)19, pp.69-84。
- 藤崎衛(2020)「10 教会改革」金澤周作編『論点・西洋史学』ミネルヴァ書房,pp.86-87。
- 藤崎衛(2023)『ローマ教皇は、なぜ特別な存在なのか―カノッサの屈辱―』NHK出版。
- 藤崎衛(2023)『ローマ教皇は,なぜ特別な存在なのか』NHK出版。
- 藤崎衛(監修)(2018)「第一・第二ラテラノ公会議(1123、1139年)決議文翻訳」『クリオ』32,pp.61-80。
- 松川克彦(2011)「我が高校世界史教科書における歴史認識の問題」『京都産業大学論集 社会科学系列』(京都産業大学)28, pp.241-271。
- 宮崎信伍(2019)「6 何が中世の秩序を揺るがせたのか―叙任権闘争―」千葉県高等学校教育研究会歴史部会編『新しい世界史の授業 生徒とともに深める歴史学習』山川出版社,pp.48-55。
- Gregory VII. Registrum Gregorii VII, IV, 12, in Das Register Gregors VII., ed. Erich Caspar, MGH, Epistolae selectae 2-1, Berlin: Weidmann, 1920, pp.311–314.
- Henry IV. “The Promise at Canossa,” 28 January 1077, in MGH Legum sectio IV.Constitutiones et acta publica imperatorum et regum, vol.1, no.66.
- https://www.cclv-movie.jp/
- https://www.bbc.com/japanese/articles/cgj8v8jgjezo