日露戦争後の日本はアジアのリーダーなのか?
教材のねらい
東京都立足立高等学校の山本治輝先生からの提供です。
山本先生からのメッセージ
東京都立足立高校(偏差値48~50程度)での実践です。歴史総合大項目B「近代化と私たち」のうち、韓国併合を中心とした日露戦争後のアジア情勢をテーマとした授業実践です。佐伯佳祐先生の「日露戦争での日本の勝利はアジアの「希望」といえただろうか?」や清水書院の『私たちの歴史総合 資料から読み解く近代の日本と世界』、浜島書店の『資料と問いから考える 歴史総合』を参考に、日露戦争後のアジアにおける日本に対する見方に着目することを軸としています。
ただ、本授業では、アジアからの視点だけでなく、日本国内では自国をアジアの中でどのような存在だと認識していたのかについても考察することで、日本国内とアジア諸国の日本の位置づけの違いを比較し、多面的・多角的な視点を養うことを目的としています。
日本側の日露戦争直後の資料では、明治後期にナショナリストに転向した徳富蘇峰の「黄人の重荷」、韓国併合後の資料では、「二六新報」の解説を抜粋し、日本国内では一貫して自分たちがアジアのリーダーとしての自負があったことを読み取らせます。
アジア諸国側の資料は、日露戦争直後、韓国併合後ともに、ネルー著『父が子に語る世界歴史』から抜粋し、韓国併合前後で日本に対する見方が希望から失望に変わっていることを読み取らせます。
本授業では、1枚のプリントを隣同士のペアで日本側の視点の担当とインド側の視点の担当に分かれ、お互いに読み取ったことを共有するジグソー的な学習方法を採用しました。資料を読み取った後、多面的・多角的視点を養うための活動として「日本はアジアのリーダーなのか」というテーマで、日本側の資料を担当した生徒は「日本はアジアのリーダーである」、インド側の資料を担当した生徒は「日本はアジアのリーダーではない」と主張するディベートを展開しました。
歴史的な多面的・多角的視点を養うだけではなく、日本国内とアジア諸国の日本に対するアジア内での位置づけのずれが生じていることを教訓に他者と対話することで自分が周りにどう見られているのか、自分は集団の中でどのような存在なのかを生徒が的確に把握でできるようになってほしいという目的でこの教材を作成しました。
2年時研修の研究授業でご好評を頂いたため初提供に至りましたが、不十分な点がたくさんあると思います。特に、資料1の徳富蘇峰の文章の抜粋は生徒に分かりやすいように現代語訳に挑戦しましたが、訳が不十分な箇所があるため、引用される際は、一度原文にあたることをお勧めします。(『蘇峰文選』は国会図書館デジタルでインターネット公開されています。)ご指導ご鞭撻を頂ければと思います
参考文献・資料
- 清水書院『私たちの歴史総合 資料から読み解く近代の日本と世界』
- 浜島書店『資料と問いから考える 歴史総合』
- 徳富蘇峰著『蘇峰文選』民友社、1916年
- 米原謙著『徳富蘇峰-日本ナショナリズムの軌跡』中公新書、2003年
- ビン・シン著『評伝徳富蘇峰:近代日本の光と影』岩波書店、1994年
- 韓相一・韓程善著『漫画に描かれた日本帝国 「韓国併合」とアジア認識』明石書店、2010年
- ネルー著『父が子に語る世界歴史 4』日本評論新社、1954年