ガンディーの英語使用におけるディスコースは、彼の生涯の中でなぜ・どのように変化したのだろうか?
教材のねらい
広島市立舟入高等学校の佐伯佳祐先生からの提供です。
佐伯先生からのメッセージ
公立の地域進学校での教科横断型授業の実践です。本校外国語科の柏原奨平教諭と協力して授業を作り実践しました。
本実践が含まれる単元では、帝国主義の実態について、単元シートを用いて補助的な問い(SQ)を設定し学習してきました。SQ1.何が帝国主義を引き起こしたのか?(経済的・軍事外交的目的は?宗主国の国内状況との関連は?)SQ2.帝国主義の「現場」における「暴力」は、どのような形態をとったのか?SQ3.帝国主義国は、どのように対立・協調してきたか?SQ4.帝国主義はどのように正当化されてきたか?(思想的背景は?教育や開発はどのような意味をもった?)などです。生徒たちは、授業を受けながらこれらの問いについて考え記述し、帝国主義への理解を深めていきました。
一方、そのうえで高揚していくのがアジア諸国のナショナリズム運動であり、これらは基本的に反帝国主義の形をとりますが、帝国主義支配は非常に複雑かつ巧妙な構造をもっているため、単に「抑圧VS反発」といった構図だけで理解することはできません。ナショナリズム運動の展開者の境遇的困難を理解することが、高次な考察のために必要であると考えました。
そこで、大項目で主要なテーマとなる帝国主義と植民地支配ならびにナショナリズムの高揚について、外国語の一次資料を活用し理解を深め考察する教科横断的な授業を構想しました。帝国主義と植民地支配に対してのナショナリズムの形態が、単に「抑圧VS反発」という形に単純化できないことを理解するための教材として、ガンディーの日記を資料として取り上げます。ガンディーは、インドにおける反英民族運動の代表的な人物ですが、英語が堪能な人物でもあります。まずもってこのことから、イギリスがインド支配において教育を利用して親英的インド人エリートを養成したことがわかりますが、ガンディーの日記の英語表現に着目すると、時期によって変化がみられます。そこで、MQを「ガンディーの英語使用におけるディスコースは、彼の生涯の中でなぜ・どのように変化したのだろうか?」とし、知識構成型ジグソー法による授業構築を試みました。ガンディーの人生のなかから3つの時期に書かれた日記を抜粋します。資料Aは1888年、18歳の時にインドから初めてのイギリス留学のために出港した日の日記、資料Bは1891年、21歳の時に3年間の留学を経て、イギリスからインドに向けて出港した日の日記、資料Cは1915年、46歳の時に20年間滞在した南アフリカを出て、イギリス経由でインドに帰る海路で叔父にあてた手紙の一部、としました。次にジグソー法におけるエキスパート班の展開ですが、よくあるパターンでは先に挙げた資料A・B・Cをそれぞれ3班に分かれて考察し、のちにジグソー活動で違いを話しあうというものが考えられますが、これでは資料から読み取った英文の特質に関する内容が他者に伝える際に「情報」化してしまい、真に英語表現について比較し考えたことにはならないという問題点があります。そこで今回は、3つの英文についてはあくまで全員が読解し、表現に着目する際の「視点」を3つのエキスパート班に振り分けて変化を考察させる構造を考えました。
エキスパート班には、それぞれ、♧「主語の選択や配列は、どう変化したか?」、♡「高度な構文を多用していた時期があったのはなぜだろう?」、♤「固有名詞やメタファーは、どのように用いられているか?」という英語表現に関わる視点と議題を与えます。♧班は、ガンディーが当初、主語の切り替えがうまくなく、主観情報を並べるにとどまっていた(英語的教養の未熟)が、のちに英語の使用域が母語話者に近づき、客観視しての描写もできるようになったことを掴みます。♡班は、留学後に英語の使用域が広がり、高度構文を多用するようになったものの、のちにそれを控えるようになった変化を掴みます。♧班は、固有名詞の使い方からして、ナショナリズム感情が無かった時期、イギリスに共感的だった時期、それをやめ、インドに母国愛を感じるようになった時期があることを掴みます。
ジグソー活動及びクロストークでは、英語的に様々な観点からガンディーの表現の変化について建設的な議論が起こりました。その際に、世界史的な見方考え方(特に、時期や推移に関するもの)を働かせて、変化の背景に言及があり、授業者が目論んだような教科横断的な学びが生じました。
参考文献・資料
- 間永次郎(2023年).『ガンディーの真実-非暴力思想とは何か』.ちくま新書
- 加瀬佳代子(2007年).「非暴力主義前史ーロンドンと南アフリカのマハトマ・ガンデイーー」 『大阪大学言語文化学』16, p.41-52
- GANDHI E-BOOKS. https://www.mkgandhi.org/ebks/gandhiebooks.php (参照 2024-10-20)