大項目C「諸地域の交流・再編」の視点から構成した小単元「西アジア社会の動向とイスラームの伝播」

教材のねらい

広島市立舟入高等学校の佐伯佳祐先生からの提供です。

佐伯先生からのメッセージ

単元を貫く問い:異なる宗教、民族、文化を持つ人々が出会ったとき、彼らはどのような関係を築いたのだろうか?

 大項目C「諸地域の交流・再編」においては、大項目Bで学習した諸地域の「特質」同士がどのように交わっていくのかを学習します。大項目D「結合・変容」の時代と異なるのは、経済的・軍事的・思想的な意味での西洋中心的な「軸」がない状態での交流の諸相を見ていくことになるところです。そこでは、大項目Bに引き続き歴史総合で獲得した「私たち」の見方考え方に自覚的になりながら、「私たち」以前の世界を探究する必要があります。特に、今回扱う西アジア社会の動向とイスラームの伝播という内容は、旧学習指導要領では「イスラーム世界の形成・展開」としてひとかたまりの連続した内容になっていたのが、今回の指導要領では「形成」にあたっていた部分と「展開」にあたっていた部分がそれぞれ大項目B・Cに振り分けられている点に注意が必要です。すなわち、アッバース朝衰退以後におけるイスラームの伝播の過程には、「交流・再編」の諸相がみられるので、そのような視点で単元を構成すべきだということです。そこで今回は、イスラームの伝播にあたってみられた交流の諸相について、アラブ・イスラームと他の民族・宗教との交流を「衝突(対立や戦争)」「共存(異なったものが異なったまま共に存在する)」「融和(異なったもの同士が混ざり合う)」の視点で問い、学習したイスラームの「特質」が、特定の空間イメージで固定され適用されるものではないこと、一般に「イスラーム世界」と呼ばれる空間に生きる人々が一定・一様な生活様式をもっているわけではないこと、イスラームだけが特別な信仰体系というわけではないこと等に気付かせます。イスラームにも、他の宗教と同じく流動性や可変性があったことを学び、特定の宗教への固定的イメージ(偏見)をもつことの危険性に気付かせることを狙います。大項目Cの最初の中項目で想定される問いを表現する活動においては、「交易の拡大、都市の発達、国家体制の変化、宗教や科学・技術及び文化・思想の伝播などに関する資料を活用」することが求められているので、それぞれの観点が入るように留意し以下のように小単元を構成しました。

MQ 伝統を重視するイスラームって、ずっと『変わらない宗教』だったの?
〇小単元の視点 イスラームは、その拡大・伝播の過程で、どのような民族・文化・宗教と衝突・共存・融和してきたか?

SQ内容・視点
1「イスラーム帝国の解体」は、イスラームが「誰」のものになったことを意味しただろうか?イスラームの諸民族への伝播・諸民族からの影響(民族・国家体制の視点)
2イスラーム神秘主義(スーフィズム)とは何か?なぜそれが、イスラームの伝播に役立ったのか?スーフィズムから考えるイスラームと諸地域の思想的交流・変容(宗教・思想の視点)
3なぜ、イスラームの諸都市には、多様な「人」や「物」が集まっていたのだろうか?都市空間から考えるネットワークと共存社会(交易・都市の視点)
4中世科学の発達において、なぜ「翻訳」が“カギ”になったのだろう?科学的知識の普遍性とその伝播(科学・技術・文化の視点)

 EQ  私たちは、「原理主義」的過激派の暴力や抑圧に抗議・反論しうるか?
※実際には、単元のはじめに講義による時代の概観(概念や用語の整理)を行うことを考えています。

 単元シートにおいて、小単元の末に「イスラーム原理主義」的な考え方に基づく過激派の存在を挙げ、彼らの理想と、小単元で学んだイスラームの歴史的な実態とを対比させます。イスラームが他の民族や宗教と交流する中で変化し、寛容性をもつことで反映してきたという千年以上にわたる歴史的事実は、過激派の圧政や抑圧への反論の根拠となるのではないかと考えます。生徒自身がこの小単元を学ぶ意義をそのように現代の「私たち」の視点から見出すことを期待します。

参考文献・資料

  • 羽田正『新しい世界史へ―地球市民のための構想』岩波新書,2011.
  • 羽田正『〈イスラーム世界〉とは何か 「新しい世界史」を描く』講談社学術文庫,2021.
  • 内藤正典『となりのイスラム 世界の3人に1人がイスラム教徒になる時代』ミシマ社,2016.
  • 木村靖二,岸本美緒,小松久男,橋場弦ほか『詳説世界史探究』山川出版社,2022.(第1時各エキスパート資料)
  • 第一学習社編集部『グローバルワイド最新世界史図表五訂版』第一学習社,2022.第1時メインプリント)
  • 後藤明『ビジュアル版 イスラーム歴史物語』講談社,2001(第2時エキスパート資料♧)
  • 本田實信『イスラム世界の発展』[ビジュアル版世界の歴史⑥]講談社,1985.
  • アイラMラピダス著,三浦徹太田啓子訳『イスラームの都市社会 中世の社会ネットワーク』岩波書店,2021.(第3時資料6)
  • ティエリーザルコンヌ著,東長靖監修,遠藤ゆかり訳『スーフィー―イスラームの神秘主義者たち』[「知の再発見」双書 絵で読む世界文化史152]創元社,2011.(第2時図像史料各種)
  • ダニエルジャカール著,吉村作治監修,遠藤ゆかり訳『アラビア科学の歴史』[「知の再発見」双書 絵で読む世界文化史131]創元社,2006.(第4時エキスパート資料♧♡♧)
  • 宮田律『物語イランの歴史 誇り高きペルシアの系譜』中公新書,2002.(第1時エキスパート資料♡)
  • 家島彦一『イブンジュバイルとイブンバットゥータ イスラーム世界の交通と旅』[世界史リブレット人028]山川出版社,2013.(第3時資料12)
  • 東長靖『イスラームのとらえ方』[世界史リブレット15]山川出版社,1996.(第2時エキスパート資料♡)
  • 佐藤次高『イスラームの生活と技術』[世界史リブレット17]山川出版社,1999.
  • 杉田英明『浴場から見たイスラーム文化』[世界史リブレット18]山川出版社,1999.
  • 三浦徹『イスラームの都市世界』[世界史リブレット16]山川出版社,1997.(第3時資料5)
  • 田村愛理『世界史のなかのマイノリティ』[世界史リブレット53]山川出版社,1997.
  • 湯川武『イスラームの社会の知の伝達』[世界史リブレット102]山川出版社,2009.(第2時エキスパート資料♤)
  • 宮崎正勝『イスラムネットワーク』講談社選書メチエ,1994.
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